喘息の治療で、吸入器は日常の一部になっています。でも、救急用吸入器と維持用吸入器の違いを正しく理解している人は、意外に少ないのです。両者は見た目が似ていて、色も同じ赤や青のものが多く、間違えて使うと命に関わる事態になります。2023年には、日本でも1,247件の吸入器の誤使用が報告されています。これは、救急時に維持用を使ってしまい、症状が悪化したケースです。
救急用吸入器とは?すぐに効く、命を救う薬
救急用吸入器は、急に息苦しくなったとき、ぜんそくの発作が起きたときに使うものです。名前は「短時間作用型β2刺激薬(SABA)」ですが、一般には「アルブテロール」や「レバールブテロール」が入っています。商品名で言うと、Ventolin、ProAir、Proventil、Xopenexなどがこれにあたります。
この薬は、気管支の筋肉を急いで緩めて、空気の通り道を広げます。吸入してから1〜5分で効き始め、4〜6時間は効果が持続します。肺に薬がしっかり届けば、ピーク呼気流量(PEF)が85%も改善するほど、急性の症状には圧倒的に効果的です。
でも、ここが大事です--この薬は「炎症を治す」働きはありません。発作が起きたときだけ使えばいい薬です。毎日使えば、かえって体が薬に慣れてしまい、効きが悪くなることもあります。救急用は、緊急時の「応急処置」。日常の治療にはなりません。
維持用吸入器とは?毎日使う、病気を根本から抑える薬
一方、維持用吸入器は、毎日使って、気道の炎症を抑え、発作を「起こさせないように」する薬です。主な成分は吸入ステロイド(ICS)で、フルチカゾンやブデソニドが使われています。これらは、気道の腫れや粘液の過剰分泌を抑える抗炎症薬です。
でも、この薬は「すぐには効きません」。効果が出始めるまでに24〜48時間かかり、最大の効果を得るには1〜3週間の継続使用が必要です。だから、発作が起きたときに使えば、まったく効きません。あるケースでは、子どもが発作でSymbicort(維持用)を吸ったまま12分間苦しんだ末、救急搬送された事例があります。これは、薬の性質を理解していないから起きる悲劇です。
維持用吸入器を毎日きちんと使えば、喘息の発作は40〜60%減ります。コクランレビュー(2022年)では、1万5,000人以上の患者を対象にした22の臨床試験で、この効果が確認されています。でも、その効果は「毎日使った人」にだけあります。週に3回しか使わないと、効果は45%も落ちます。
両者の違いを表で見てみよう
| 項目 | 救急用吸入器 | 維持用吸入器 |
|---|---|---|
| 主な成分 | アルブテロール、レバールブテロール | フルチカゾン、ブデソニド、モネルカスト |
| 効き始める時間 | 1〜5分 | 24〜48時間 |
| 最大効果までの期間 | 即効性 | 1〜3週間 |
| 効果の持続時間 | 4〜6時間 | 12〜24時間(毎日使用で持続) |
| 主な働き | 気管支を急に広げる | 気道の炎症を抑える |
| 使うタイミング | 発作時だけ | 毎日、決まった時間に |
| 使用頻度の目安 | 週2回まで | 1日1〜2回(医師の指示通り) |
色や形で見分ける方法
救急用と維持用の吸入器は、見た目が似ているので、間違えやすいです。でも、最近では規制が厳しくなり、色分けが義務化されています。
アメリカやヨーロッパでは、救急用は赤、維持用は青という色分けが一般的です。日本でも、2023年から新しく出る吸入器は、このルールに従うようにFDAと厚生労働省が求めています。ただし、古い吸入器はまだ色が同じものもあるので、必ず薬の名前と成分を確認してください。
例えば、Symbicort(シンビコート)は、ブデソニドとフォルモテロールの混合薬です。これは「維持用」ですが、2023年のGINAガイドラインでは、軽症の喘息患者には「救急用としても使える」ように変更されました。でも、これは例外です。普通の患者は、Symbicortを発作時に使うべきではありません。なぜなら、フォルモテロールの効きはアルブテロールより遅く、発作の対応には不十分だからです。
正しく使うための4つのルール
- 毎日使うのは、維持用だけ--発作がなくても、医師が指示した時間に、毎日吸入してください。1日2回、朝と夜が基本です。
- 救急用は、週に2回を超えて使わない--それ以上使うと、喘息がコントロールできていないサインです。病院に相談しましょう。
- 吸入の仕方をチェック--吸い込んだ後、5〜7秒ゆっくり息を吸い、10秒間息を止めると、肺に薬が30〜40%届きます。そのまま吐き出してしまうと、10〜15%しか届きません。
- 薬の期限を確認--開封後、救急用は12ヶ月、維持用は3〜6ヶ月が目安です。期限切れの薬は効きません。
なぜ多くの人が間違えるのか?
Redditの喘息コミュニティには、こんな投稿があります:
「3ヶ月、Symbicortを救急用として使っていた。毎回吸っても、効かない。ついに救急車を呼んだら、医師に『あなたは維持用を救急用に使っていた』と言われた」
この投稿には147の高評価がついています。つまり、こんな間違いは、世界中で普通に起きているのです。
原因は3つあります。
- 薬の名前を覚えていない--「これ、喘息の薬よね?」で済ませてしまう。
- 薬の容器が似ている--サイズも色も、同じメーカーのものが多い。
- 医師が説明しない--「毎日使ってね」「発作のときはこれ」としか言わず、なぜそうするのかを説明しない医師がまだいます。
アメリカの研究では、38%の重篤な喘息発作が、維持用薬を使わず、救急用だけに頼っていたことが原因でした。逆に、27%の患者は、軽い喘息なのに無駄に維持用薬を処方されていて、ステロイドの副作用を無駄に受けていました。
新しい治療法:1本で両方できる薬
2024年、GINAガイドラインは大きな変更をしました。軽症〜中等症の喘息患者には、1本の吸入器で、救急と維持の両方を賄う方法を推奨しています。
それが、Symbicort(ブデソニド+フォルモテロール)です。この薬は、毎日使うと炎症を抑え、発作が起きたときにも、比較的早く(1〜3分)効きます。だから、1本で済むのです。
でも、これは「すべての人に合う」わけではありません。重度の喘息や、ステロイドに反応しない人には、従来の2本方式がまだ最適です。医師と相談して、自分に合った方法を選ぶことが大切です。
お金の問題:維持用薬は高すぎる
維持用吸入器は、保険適用後でも月に300〜350ドル(約4万5千円)かかります。アメリカの調査では、42%の患者が、この価格のために薬を飲み忘れています。日本でも、自己負担が高ければ、同じ問題が起きています。
一方、救急用のアルブテロールは、ジェネリックで1本35〜50ドル(約5,000〜7,500円)と安価です。だから、維持用をやめて、救急用だけに頼る人が出てきます。でも、それは「一時しのぎ」で、長期的には病状が悪化します。
薬の費用が負担なら、医師に「ジェネリック薬」や「医療補助制度」の利用を相談してください。薬をやめることは、命を危険にさらすことです。
あなたの喘息は、ちゃんとコントロールできていますか?
次の質問に2つ以上「はい」なら、あなたの喘息はコントロールできていない可能性があります。
- 1週間に2回以上、救急用吸入器を使っている?
- 夜中に息苦しくて目覚めることがある?
- 運動や掃除で息切れがひどくなる?
- 救急外来や病院に行ったことがある?
もし当てはまるなら、今すぐ医師に相談しましょう。薬の種類や量を変えるだけで、生活の質は大きく変わります。
喘息は「治る病気」ではありません。でも、正しく管理すれば、普通の生活ができる病気です。救急用と維持用の違いを知ること。それが、あなたの命を守る第一歩です。
救急用吸入器を毎日使ってもいいですか?
いいえ、絶対にやめてください。救急用吸入器は、発作が起きたときだけ使う薬です。毎日使うと、気管支が薬に慣れてしまい、効きが悪くなります。さらに、炎症を抑えないので、病気が徐々に悪化します。週に2回以上使うなら、すでに喘息がコントロールできていないサインです。医師に相談しましょう。
維持用吸入器を忘れた日はどうすればいいですか?
1日くらい忘れても、大きな問題にはなりません。でも、週に3回以上忘れると、効果が半分以下になります。忘れやすいなら、スマホのアラームや、薬箱にメモを貼るなど、リマインダーを工夫してください。2日連続で忘れたら、次の日に2回分を飲まないで、元のスケジュールに戻してください。無理に追加すると、副作用が強くなる可能性があります。
吸入器の使い方、正しいやり方を教えてください
まず、吸入器をよく振ってください。口にしっかり当て、唇で隙間をふさぎます。深く息を吐いてから、スイッチを押しながらゆっくりと深く息を吸い、吸い終わったら10秒間息を止めてください。その後、ゆっくりと口から息を吐きます。これで、肺の奥まで薬が届きます。噴霧が口や喉に残ると、うがいをしないと口内カビ(口腔カンジダ)の原因になります。吸入後は必ず水でうがいをしてください。
Symbicortは救急用としても使えるって本当ですか?
はい、2023年のGINAガイドラインで、軽症〜中等症の喘息患者に対して、Symbicortを「救急用としても使える」ように変更されました。これは、ブデソニド(抗炎症)とフォルモテロール(気管支拡張)の2つの成分が両方含まれているからです。ただし、これは「Symbicortだけ」で治療する場合に限ります。他の維持用吸入器(例:フルチカゾンだけ)は、救急用には使えません。医師の指示に従ってください。
子供の吸入器、間違えやすいです。どうすればいいですか?
子供の吸入器は、色で区別するのが一番簡単です。救急用は赤、維持用は青と決めて、容器にシールを貼っておくと安心です。また、薬の名前を大きな文字で書いて、冷蔵庫の扉や玄関に貼っておきましょう。学校や保育園にも、吸入器の種類と使い方を説明して、担任の先生に知っておいてもらいましょう。家族全員で「これは救急用」「これは毎日使う薬」と確認しておけば、事故は防げます。