病院で処方された薬のラベルに、CSA SCHやNARCといった記号が書かれているのを見たことはありますか?これらは、アメリカの法律で定められた制御薬物(Controlled Substances)の分類コードです。日本では見慣れないこれらの表記は、薬の安全性や依存性のリスクを示す重要な情報です。このシステムは、1970年にリチャード・ニクソン大統領が署名した制御薬物法(Controlled Substances Act, CSA)に基づいています。この法律は、薬物がどれほど危険か、医療的にどれだけ有用かを5つの段階(スケジュール)に分けて管理する仕組みです。
制御薬物とは何か
制御薬物とは、依存性や乱用の可能性があるため、政府が厳しく管理する薬のことです。アスピリンやビタミンのような一般薬とは異なり、これらの薬は処方箋なしでは手に入りません。たとえば、オキシコドン(オキシコンチン)、モルヒネ、フェンタニルは、強い痛みを和らげる効果がありますが、依存しやすく、過剰摂取で命を落とす可能性もあります。そのため、これらはスケジュールIIに分類されています。
一方、軽い不眠症や不安に使われるアルプラゾラム(ゼナックス)やディアゼパム(バロール)は、依存のリスクが低いとされ、スケジュールIVに分類されます。さらに、咳止めの薬に少量のコデインが含まれている場合、スケジュールVになることがあります。このように、同じ成分でも濃度や配合によって分類が変わるのです。
5つのスケジュールの違い
制御薬物は、以下の5つのスケジュールに分けられています。それぞれの特徴をわかりやすく整理しましょう。
- スケジュールI:医療的用途なし、非常に高い依存性。例:ヘロイン、LSD、マリファナ(連邦法では)。日本ではこれらの薬は完全に禁止されています。
- スケジュールII:強い依存性があるが、医療的に有用。処方箋は1回限り、再処方は不可。例:オキシコドン、モルヒネ、コカイン、フェンタニル。
- スケジュールIII:中程度~低めの依存性。処方箋は6ヶ月以内に最大5回まで再処方可能。例:コデイン+アセトアミノフェン(1錠あたり90mg未満)、ケタミン、ステロイド。
- スケジュールIV:依存性が低い。再処方はスケジュールIIIと同様。例:ゼナックス、バロール、アンビエン、トラマドール。
- スケジュールV:依存性が非常に低い。一部は薬局で薬剤師の監督下で購入可能。例:プレガバリン、アトロピン・ディフェノキシレート配合下痢止め、コデイン含有咳止め(100mlあたり200mg未満)。
スケジュールが低いほど、処方の自由度が高くなります。スケジュールIIの薬は、紙の処方箋(耐改ざん仕様)でしか受け取れず、電子処方箋は一部の州でしか認められていません。一方、スケジュールIVやVは、電子処方箋が標準的で、薬局で一部を分割して受け取ることもできます。
ラベルに書かれるコードの意味
薬のラベルや処方箋には、DEAコード(Controlled Substance Code Number)が記載されています。これは、各薬物に割り当てられた一意の番号で、製造元、処方医、薬局がどれだけの量を扱ったかを追跡するために使われます。たとえば、オキシコドンのDEAコードは「1124」、コデインは「9010」です。ラベルに「CSA SCH II」とあれば、それはスケジュールIIの薬であることを意味します。
また、「NARC」と書かれていたら、それは「Narcotic(麻薬)」の略で、主にスケジュールIIやIIIのオピオイド系薬を指します。この記号は、薬剤師が処方を確認する際の重要な手がかりです。処方箋の内容が正しく、患者の服用履歴と矛盾していないかをチェックする際に、このコードが役立ちます。
医療現場での実際の課題
このシステムは理論的には整備されていますが、現場では多くの課題があります。がんの看護師の一人は、「スケジュールIIの処方箋を処理するのに、通常の処方箋より15分も時間がかかる」と語っています。なぜなら、処方箋の原本を保管しなければならず、患者の名前、薬の名前、量、処方日、医師のDEA登録番号まで、すべて正確に記録しなければならないからです。
2022年のDEAの監査では、スケジュールIIの処方記録の不備が43%ものケースで指摘されました。たとえば、医師の署名が足りない、DEA番号が間違っている、処方日が記載されていない、といったミスです。これらのミスは、薬の不正流通を防ぐためのルールですが、医療スタッフの負担を大きくしています。
一方で、薬剤師の3分の2以上は、このシステムが患者のケアを妨げていると感じています。特に、がんの患者が痛みで苦しんでいるのに、スケジュールIIの薬を再処方できないことで、治療の継続が難しくなるケースがあります。日本では「痛みの管理」が医療の基本ですが、アメリカでは「薬の管理」が優先されがちです。
変化の兆し:マリファナの再分類
このシステムの最大の矛盾は、マリファナの扱いです。アメリカでは38州で医療用マリファナが合法ですが、連邦法ではまだスケジュールIに分類されています。これは、「医療的用途がない」という分類と現実が大きく乖離していることを意味します。
2023年8月、保健福祉省(HHS)は、マリファナをスケジュールIからスケジュールIIIに再分類するよう、連邦政府に勧告しました。もし実現すれば、2026年現在、約210万人の医療用マリファナ利用者が、より安全に、より規則正しく薬を手に入れられるようになります。これは、1970年以来初めての大きな変更です。
この変更は、単なるマリファナの話ではありません。このシステム全体の見直しの第一歩とされています。専門家は、今後5~7年で、スケジュールが6段階や7段階に細分化される可能性があると予測しています。なぜなら、現在の5段階では、コデインとフェンタニルを同じ「依存性が高い」として扱うのは、科学的に不適切だからです。
患者が知っておくべきこと
あなたがアメリカで処方された薬のラベルを見て、不安になったら、まず次の3つを確認してください。
- CSA SCHの後ろに書かれている数字は?(II, III, IV, V)
- 「NARC」と書かれているか?(麻薬系の薬かどうか)
- 再処方は可能か?(スケジュールIIは不可、III以上は最大5回まで)
たとえば、スケジュールIIの薬を処方された場合、薬局で「再処方できません」と言われても、それはルール違反ではなく、法律による制限です。薬剤師が「もう1回ください」と頼んでも、断らなければならないのです。
また、スケジュールIIIやIVの薬を処方された場合、薬の量を減らして少しずつ受け取ること(分割調剤)が可能です。痛みが強い日だけ薬をもらう、という柔軟な対応ができます。これは、スケジュールIIの薬ではできないことです。
今後の見通し
2025年10月、DEAは最新のスケジュールコードを更新しました。合成カンナビノイドや新規精神作用物質が、緊急にスケジュールIに追加されています。これは、麻薬取締りが「新しい薬」に追いつこうとしている証拠です。
一方で、医療現場からは「もっと柔軟な分類が必要だ」という声が高まっています。薬物の依存性は、単に「強い」「弱い」ではなく、個人の体質、年齢、精神状態、他の薬との相互作用によって大きく変わります。現在のシステムは、薬を「分類」するには役立ちますが、患者一人ひとりの「リスク」を正確に測るには不十分です。
2026年現在、このシステムは変化の真っ只中にいます。マリファナの再分類が進むと、他の薬物の分類も見直される可能性があります。医療従事者も、患者も、この変化に合わせて、薬の扱い方を学び直す必要があります。制御薬物のラベルは、単なる文字ではなく、命を守るための暗号なのです。
制御薬物のラベルに書かれている「CSA SCH II」とは何か?
「CSA SCH II」は、アメリカの制御薬物法(Controlled Substances Act)に基づくスケジュールIIを意味します。これは、医療的に有用だが、強い依存性と乱用のリスクがある薬物を指します。例として、オキシコドン、モルヒネ、フェンタニルなどが該当します。処方箋は1回限りで、再処方は一切できません。紙の処方箋が必要で、電子処方箋は一部の州でしか使えません。
スケジュールIIIとスケジュールIVの違いは?
スケジュールIIIは中程度~低めの依存性があり、6ヶ月以内に最大5回まで再処方可能です。例はコデイン+アセトアミノフェンやケタミンです。スケジュールIVは依存性がさらに低く、再処方のルールはスケジュールIIIと同じですが、使用される薬は不安や不眠に使われるもの(例:ゼナックス、バロール)が中心です。どちらも電子処方箋が可能で、薬局で部分的に受け取ることもできます。
マリファナはなぜスケジュールIなの?
現在、連邦法ではマリファナは医療的用途がないとされ、スケジュールIに分類されています。しかし、38州で医療用として合法化されており、科学的な証拠も増えてきています。2023年8月、保健福祉省はスケジュールIIIへの再分類を勧告しました。2026年現在、その決定は待機中ですが、これが実現すれば、2026年以降の医療現場に大きな影響を与えます。
スケジュールVの薬は薬局で買えるの?
はい、一部のスケジュールV薬は、薬剤師の監督下で処方箋なしで購入できます。例としては、コデインが100mlあたり200mg以下しか含まれていない咳止めや、アトロピンとディフェノキシレートを含む下痢止めがあります。依存性が非常に低いため、一般薬に近い扱いをされています。
処方箋にDEA番号が必要な理由は?
DEA番号は、医師が連邦政府に登録した唯一の識別番号です。これがないと、制御薬物を処方することは法律で禁止されています。この番号を処方箋に記載することで、薬が誰によって、どこで、どのくらい処方されたかを追跡できます。これは、不正な薬の流通や乱用を防ぐための重要な仕組みです。