生物薬品は、化学合成で作られる従来の薬とは根本的に違う。細胞や微生物を使って作られるこの薬は、一度製造されると、まったく同じものを二度と作れない。なぜか? その答えは、製造プロセスの複雑さにある。
生物薬品とは何か?
生物薬品は、ヒトの細胞や微生物、動物細胞を使って作られる薬だ。最初に承認されたのは1982年のインスリン(ヒューマリン)で、糖尿病の治療に革命をもたらした。今日では、関節リウマチのヒュミラ、糖尿病のオズメピックなど、がんや自己免疫疾患、稀少疾患の治療に欠かせない存在になっている。
これらの薬は、小さな分子薬(ジェネリック薬)と比べて、分子の大きさが最大で1,000倍以上も大きい。小さな分子薬は化学反応で作られるので、同じ成分が毎回同じ形で生まれる。しかし、生物薬品は生きている細胞が作る。細胞は環境のわずかな変化に敏感で、温度、pH、栄養、酸素濃度が1度でもずれると、最終的な薬の構造が変わってしまう。
製造には3〜6ヶ月、失敗率は10〜15%
生物薬品の製造は、単なる工場作業ではない。まず、遺伝子を改変した細胞を育て、それを生物反応器で数週間培養する。この工程だけでも10〜14日かかる。細胞の生存率は95%以上を保たなければならず、1%の低下でも製品が使えなくなる。
次に、純化工程が始まる。タンパク質Aクロマトグラフィーで95〜98%の純度を達成し、ウイルス除去、濃縮、緩衝液調整を繰り返す。この一連の工程を終えるまで、平均3〜6ヶ月かかる。一方、ジェネリック薬は数週間で完成する。
製造の失敗率は10〜15%。その主な原因は汚染だ。1回の失敗で50万ドル以上が無駄になることもある。あるアムゲンのエンジニアは、反応器を2,000リットルから15,000リットルに拡大するのに17ヶ月と2,200万ドルの損失を出したと語っている。
なぜ完全なコピーができないのか?
ジェネリック薬は、化学構造が明確で、分析すればすべての成分を特定できる。だから、原料さえ同じなら、まったく同じ薬を作れる。
しかし、生物薬品はそうではない。現在の分析技術では、モノクローナル抗体の構造の60〜70%しか解明できない。残りの30〜40%は、何がどうなっているか不明なまま。FDAは明確に言っている:「生物薬品は、製造過程で自然にわずかな変異が生じる」。
つまり、ある工場で作ったヒュミラと、別の工場で作った同じ名前の薬は、成分名は同じでも、分子の微妙な形や付加構造が違う。それは「違い」ではなく、「自然な変動」だ。だから、完全なコピーは科学的に不可能だ。
バイオシミラーは「似たもの」だが、コピーではない
そこで生まれたのがバイオシミラー。これは、原研薬と「非常に似ている」が、「まったく同じ」ではない薬だ。FDAは、バイオシミラーに厳格な検査を課す。分析試験、非臨床試験、臨床試験をすべて通さないと承認されない。
2023年のグローバルバイオシミラー市場は105億ドル。2028年には300億ドルに達すると予測されている。しかし、その製造は原研薬と同等の複雑さとコストを要する。製造コストの30〜40%が品質管理に使われる。ジェネリック薬は5〜10%だ。
ある製薬会社の技術者は、「バイオシミラーはコピーではなく、再創造だ」と語る。原研薬の製造プロセスを完全に再現することはできない。だから、自社のプロセスで「同じ効果」を出すために、何百回もの試行錯誤を重ねる。
製造の課題:清浄室、記録、そして水の消費
生物薬品の製造は、ISOクラス5の清浄室で行われる。空気中の微粒子が1立方メートルあたり3,520個以下でなければならず、手袋一つで汚染が起こる。そのため、作業員は専用の防護服を着て、数時間ごとに消毒を繰り返す。
さらに、1つの製品につき、製造記録が1万ページ以上になる。原材料の仕入先、反応器の温度変化、分析データ、検査結果--すべてを細かく記録しなければならない。FDAは、この記録が「製品の証拠」だと位置づけている。
環境面でも負荷が大きい。1回の投与あたり、小分子薬の10〜15倍の水を使う。環境保護団体は「生物薬品は、高価な薬だけでなく、地球にも高いコストを課している」と指摘する。
未来:AIとモジュラー工場
しかし、技術は進化している。AIが製造プロセスをリアルタイムで最適化し、失敗を予測する。単一使用装置(一次使用のパイプやタンク)が普及し、汚染リスクが60%減った。新しい工場の15%は、連続製造を採用し、製造期間を20〜30%短縮している。
2030年までには、モジュラー型の柔軟工場が主流になると予測されている。これなら、1つの施設で複数の生物薬品を切り替えて作れる。資本投資は25〜30%削減できる。
でも、根本的な問題は変わらない。生物薬品は、生き物が作る薬だ。だから、完璧なコピーは存在しない。その「不完全さ」こそが、この薬の本質であり、同時に最大の課題でもある。