睡眠時無呼吸症とは何か?
睡眠中に呼吸が何度も止まる病気を睡眠時無呼吸症と呼びます。特に多いのは、喉の筋肉がリラックスしすぎて気道がふさがる「閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)」です。この状態が繰り返されると、血液中の酸素が急激に下がり、夜中に何度も目が覚めます。本人は気づかないことが多いですが、朝起きると頭が重く、日中は強い眠気に襲われます。長く放っておくと、高血圧、心臓病、脳卒中のリスクが高まります。
CPAPがなぜ効くのか
CPAP(持続的気道陽圧療法)は、睡眠中に鼻や口にマスクを装着し、空気を少しずつ圧力をかけて送り込む装置です。この圧力が気道をふさがなくする「支柱」の役割を果たします。研究では、CPAPを正しく使えば、90%の人が一晩の呼吸停止を5回以下に減らせます。これは、薬を飲むのではなく、物理的に気道を開くという画期的なアプローチです。
マスクは鼻だけに当てるタイプ、鼻と口の両方に当てるタイプ、鼻の穴に小さなチューブを挿すタイプがあります。日本人の多くは鼻マスクを選ぶ傾向があります。マスクのフィッティングが悪いと空気が漏れて効果が下がるので、最初のセットアップはとても重要です。
酸素療法とCPAPの違い
酸素療法は、血液中の酸素濃度を上げるための治療です。しかし、これは根本的な解決にはなりません。睡眠時無呼吸症の原因は「気道がふさがる」ことであって、酸素が足りないからではありません。酸素だけを補っても、呼吸が止まる状態は変わりません。結果として、夜中に何度も目が覚め、睡眠の質は改善されません。
CPAPは、酸素を補うのではなく、呼吸が止まるのを防ぎます。だから、CPAPを使い始めてから、多くの人が「朝起きるのが楽になった」「日中、眠くならない」と実感します。酸素療法は、CPAPと併用される場合がありますが、単独ではOSAの治療としては不十分です。
CPAPの使用時間と効果の関係
CPAPの効果は、どれだけ長く使っているかで大きく変わります。アメリカのガイドラインでは、1晩に4時間以上、週に70%以上の日数で使用することが「適切な使用」と定義されています。しかし、実際には、使っている人でも、2時間しか使わない人が多くいます。
研究によると、1晩4時間以上使った人の78%は、1か月後に日中の眠気の改善を実感しました。一方、2時間以下しか使わない人は、改善を感じたのは32%にすぎません。つまり、効果を出すには「時間」がカギです。最初は慣れないかもしれませんが、1週間くらいで体が慣れてきます。
CPAPと他の治療法の比較
睡眠時無呼吸症の治療には、CPAP以外にも選択肢があります。たとえば、下あごを前に出すマウスピース(MAD)があります。これは、寝るときに口に装着する装置で、気道を広げる効果があります。MADはCPAPより使いやすいと感じる人も多く、1年後の使用継続率は70%ほどです。しかし、重度の睡眠時無呼吸症では、CPAPの方が圧倒的に効果的です。MADでは呼吸停止が半分に減る程度ですが、CPAPでは90%以上がほぼゼロになります。
また、心臓の病気と関係する「中心性睡眠時無呼吸症(CSA)」では、CPAPではなく「アダプティブサーボ・ブリザーション(ASV)」が使われます。しかし、ASVは重度の心不全の患者には使えないことが分かっています。2015年の大規模な研究では、ASVを使った患者の心臓関連の死亡率が上がりました。
最近では、舌の神経を刺激して気道を開く「インスパイア」という埋め込み型の装置もFDAの認可を受けています。これは、CPAPが使えない人向けの選択肢ですが、手術が必要で費用も高めです。現在のところ、CPAPは最も広く使われ、信頼されている治療法です。
CPAPの使い方のコツ
- マスクは寝る30分前に装着して、少しずつ慣れる
- 加湿機能を使うと、鼻の乾燥や喉の痛みが減る(73%のユーザーが満足)
- 口が開いてしまう人は、あごバンドを使うと漏れが防げる
- 圧力が高すぎて苦しい場合は、医師に「オートCPAP」や「バイレベルPAP」への変更を相談
- 旅行時は、コンパクトな携帯用CPAPを用意すると便利(82%の人が利用)
最初は「マスクが気持ち悪い」「空気が強い」「耳が詰まる」など、不満が出てくるのが普通です。でも、その多くは、マスクのサイズを変える、加湿器をつける、圧力を少し下げる、といった小さな調整で解決します。専門のクリニックで、最初のセットアップを30分以上かけてもらうと、6か月後の使用継続率が32%も上がります。
CPAPのトラブルと対処法
最もよくある問題は「マスクの漏れ」です。空気が漏れると、効果が下がるだけでなく、音がうるさくてパートナーに迷惑をかけます。漏れの原因は、マスクが小さすぎる、顔にフィットしていない、ゴムが伸びている、などです。毎日、マスクを洗って、ゴム部分のひび割れや変形をチェックしましょう。
「鼻が詰まる」「鼻水が出る」場合は、加湿器の温度を上げてみましょう。冷たい空気は鼻を乾かします。また、鼻の粘膜が腫れているなら、医師に相談して鼻炎の薬を処方してもらうのも有効です。
「眠れない」「夢を見すぎて疲れる」と感じる人もいます。これは、CPAPの圧力が高すぎたり、呼吸のリズムが合わないことが原因です。その場合は、自動で圧力を調整する「APAP」に変更すると改善することがあります。
CPAPの最新技術と未来
今、新しいCPAPは、インターネットにつながって、使用状況を自動で医師に送信できます。例えば、ResMedのAirViewやPhilipsのDreamMapperというシステムです。これで、医師は「この患者は週に3日しか使っていない」とすぐに気づき、電話やメールでアドバイスできます。その結果、フォローアップの訪問が27%減り、使用継続率が上がっています。
2024年には、アメリカ睡眠医学会が新しいガイドラインを出します。それまで「4時間以上使えばOK」とされていた基準が、より個人に合わせたものに変わります。例えば、「眠気はなくなったけど、血圧が下がらない」なら、圧力を上げる必要がある、という判断が可能になります。
一方で、2021年には、フィリップス社のCPAPが、内部の発泡材が劣化して有害物質を放出するという大規模リコールがありました。それ以降、FDAはCPAPの規制を強化し、安全性の確認がより厳しくなりました。現在、市販されている機器はすべて新しい基準を満たしています。
医療保険と費用
日本では、CPAPは医療保険が適用されます。初期の機器購入費は、自己負担が3割で、約10万円程度です。その後の消耗品(マスク、チューブ、フィルター)は、毎月の保険適用で安価に手に入ります。
米国では、メディケアが1ヶ月あたり約210ドル(約3万円)を支払っています。ただし、使用時間の記録を医療機関に送らないと、保険が支払われないケースが増えています。つまり、「使っているかどうか」が、治療の一部として管理される時代になっています。
長期的な視点:CPAPは一生使うもの?
多くの人が「CPAPは一生使わなければいけないのか?」と心配します。答えは、「基本的には、はい」です。睡眠時無呼吸症は、肥満を解消すれば改善することもありますが、多くの人は、体重が減っても気道の構造が変わらないため、CPAPが必要になります。
しかし、最近の研究では、重度の肥満の人が15kg以上減量した場合、CPAPが不要になるケースが15〜20%あります。そのため、CPAPを使いながら、食事と運動で体重を減らすのがベストの戦略です。
将来、埋め込み型の装置や、薬による治療が進むかもしれませんが、現時点では、CPAPが最も安全で、効果が証明された方法です。呼吸が止まる夜を終わらせるために、この機械は、今も、そしてこれからも、多くの命を救い続けています。
CPAPは毎晩使わないと意味がないですか?
はい、毎晩使うことが効果の鍵です。たとえ1晩使わなくても、次の日は眠気や集中力の低下が戻ります。CPAPは「症状を一時的に抑える」のではなく、「気道を常に開いておく」治療です。中断すると、呼吸が止まる状態が再開します。週に5〜6日でも効果はありますが、理想的には毎晩、就寝中に使用してください。
CPAPのマスクはどれくらいで交換すべきですか?
マスクのパッド(顔に当たる部分)は、1〜2か月で交換するのが目安です。ゴム部分は3〜6か月、チューブは6〜12か月で交換してください。汚れや劣化が進むと、空気が漏れたり、細菌が繁殖したりするリスクがあります。メーカーの推奨に従って、消耗品を定期的に取り替えることが、長く安全に使うコツです。
CPAPを使い始めて、鼻血が出るようになったのですが、大丈夫ですか?
鼻血の原因は、空気が乾燥しているか、マスクが圧力で鼻の粘膜をこすっている可能性があります。まずは加湿器をオンにして、湿度を上げてください。それでも続くなら、マスクのサイズを見直すか、鼻の粘膜を保護するクリームを医師に相談して処方してもらいましょう。鼻血が続く場合は、CPAPの圧力が高すぎることもあるので、調整が必要です。
CPAPと酸素療法を同時に使うことはできますか?
はい、可能です。特に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や心不全を併発している患者では、CPAPで気道を開きつつ、酸素を補う必要がある場合があります。この組み合わせは「非侵襲的陽圧換気(NIV)」と呼ばれます。ただし、酸素だけでは睡眠時無呼吸症は治せないので、CPAPは必ず併用してください。医師の指示に従って、両方の装置を正しく接続することが重要です。
CPAPを使っているのに、日中も眠いのはなぜですか?
日中の眠気が続く場合、いくつかの可能性があります。まず、CPAPの圧力が足りていない可能性があります。呼吸停止が完全に止まっていないかもしれません。次に、他の睡眠障害(不眠症、不規則な生活リズム)が併発している可能性があります。また、中心性睡眠時無呼吸症が隠れていることもあります。この場合は、CPAPだけでは不十分で、別の装置(ASV)が必要になることがあります。必ず医師にデータを確認してもらい、原因を特定しましょう。