糖尿病を持っている人なら、一度は耳にしたことがあるかもしれません--糖尿病網膜症。この病気は、目の中の網膜の血管が糖尿病の高血糖によって傷ついていく病気です。初期には何も感じません。でも、気づいたときには、すでに視力が大きく損なわれていることも。日本でも、糖尿病患者の3人に1人がこの合併症を発症すると言われています。でも、怖いのは、この病気は予防できるということ。早期発見と適切な治療で、95%以上の人が視力を守ることができます。
糖尿病網膜症は、どうやって目を傷つけるの?
血糖値が長く高いままになると、体中の血管が少しずつ傷つきます。目の中の網膜も例外ではありません。網膜は、光を捉えて視覚情報を脳に送る重要な組織。その中にある細かい血管が、高血糖によって弱くなり、膨らんだり、漏れたり、詰まったりします。
最初は、血管の壁に小さな袋状の膨らみ(微小動脈瘤)ができるだけ。この段階では、視力に全く影響はありません。でも、時間がたつと、血管が完全に詰まり、網膜の一部に酸素や栄養が届かなくなります。すると、体は「代わりの血管を作ろう」と反応。でも、その新しい血管はもろくて、正常な働きをしません。簡単に出血したり、網膜を引き剥がす原因になったりします。
さらに、血管から漏れた液体が網膜の中心部(黄斑)にたまると、糖尿病黄斑浮腫という状態になります。ここは、細かい文字を読んだり、顔を見分けたりするのに必要な場所。液体がたまると、ものがゆがんで見えたり、ぼやけたりします。この黄斑浮腫は、糖尿病患者の約6.7%に起こり、視力障害の主な原因の一つです。
症状が現れるのは、すでに手遅れのとき
この病気の最大の危険は、痛みも不快感もないことです。多くの人が、視力が急に悪くなったとき、やっと病院に駆け込みます。でも、その頃には、すでに網膜に大きなダメージが起きている。
症状が出始めた頃の主なサインはこうです:
- 視界に黒い点や糸くずが浮かぶ(飛蚊症)
- 夜の運転が怖くなる、暗いところが見えにくい
- ものがゆがんで見える、ぼやける
- 色が以前より薄く見える
- 視野の端が見えなくなる
特に注意すべきは、「目の出血」。急に視界が赤く染まったり、黒いカーテンが下りてきたように見えるなら、それは網膜の異常な血管が破裂したサインです。これは緊急事態。すぐに眼科を受診してください。
実際、患者の68%が、症状を感じたときにはすでに中等度~重度の段階に進んでいます。だからこそ、症状がなくても定期検査が命を守る鍵になります。
レーザー治療は、どうやって視力を守るの?
糖尿病網膜症の治療には、2つの柱があります。ひとつは、血糖や血圧、脂質のコントロール。もうひとつが、眼科での治療--その中心がレーザー光凝固療法です。
レーザー治療は、網膜の異常な血管を直接焼いてしまう方法です。なぜ焼くのか? その理由はシンプル。もろい血管を減らし、出血や網膜剥離を防ぐため。また、黄斑浮腫がある場合は、漏れを止めるために周囲の血管を凝固させ、液体の浸出を抑えます。
治療は、通常、局所麻酔で行います。目を広げる点眼をした後、特殊なレンズを使ってレーザーを網膜に照射。痛みはありますが、耐えられないほどではありません。1回の治療は15~30分。複数回に分けて行う場合が多いです。
この治療の効果は、研究でしっかり裏付けられています。早期に治療を開始した患者の95%以上が、その後の視力を維持できています。ただし、レーザーは「治す」治療ではありません。進行を止める治療です。一度失われた視力は、レーザーでは戻りません。だからこそ、早めの治療が絶対に必要。
レーザー以外の選択肢:抗VEGF療法とは?
近年、レーザー治療に加えて、新しい治療法が広まりつつあります。それが抗VEGF療法です。VEGFとは、異常な血管を育てる成分の名前。この成分をブロックする薬を、目の中に注射します。
この治療は、黄斑浮腫に対して特に効果的。レーザーと比べて、視力の回復が期待できるケースもあります。注射は、数週間ごとに数回行い、その後は状態に応じて間隔をあけて継続します。痛みは軽く、短時間で終了します。
現在の標準的なアプローチは、「レーザー+抗VEGF」の組み合わせ。状況によっては、抗VEGFだけでも十分な効果が出ることもあります。医師が、患者の網膜の状態や、黄斑浮腫の有無、全身の糖尿病管理の状態を見て、最適な方法を選びます。
視力を守るための、たった一つのルール
糖尿病網膜症の予防で、最も重要なのは「検査」です。日本では、糖尿病患者は年1回、眼底検査(網膜の写真を撮る検査)を受けることが推奨されています。これは、保険適用で無料または安価で受けられます。
検査では、瞳孔を広げる点眼をします。その後、特殊なカメラで網膜の状態を詳細にチェック。血管の変化、出血、浮腫の有無を確認します。レーザーが必要かどうかは、この検査で決まります。
でも、多くの人が「視力が悪いわけではないから大丈夫」と思って、検査を先延ばしにします。でも、視力が悪くなる前に、網膜はすでに傷ついているのです。検査は、視力を守るための「予防接種」のようなもの。
血糖値をしっかりコントロールすることも、もちろん大切。HbA1cを7.0%以下に保つことで、網膜症の進行を半分以上抑えられるという研究もあります。血圧とコレステロールも、同時に管理しましょう。タバコは絶対にやめてください。喫煙は、網膜の血管をさらに悪化させます。
治療後も、終わりじゃない
レーザー治療をしたからといって、安心してはいけません。網膜のダメージは、一度治ったとしても、また進む可能性があります。治療後も、定期的な検査は続けなければなりません。年1回では足りない場合、半年ごとの検査が必要になることもあります。
また、抗VEGF注射を繰り返す必要がある人もいます。それは、治療が「失敗」したわけではありません。病気の性質上、継続的な管理が必要なだけです。医師としっかり話し合い、自分に合ったスケジュールを決めてください。
視力が悪くなると、生活の質は大きく変わります。買い物、運転、読書、家族との会話--すべてが難しくなります。でも、この病気は、あなたが「行動する」ことで、避けられるのです。
糖尿病網膜症は、どんな人がなりやすいの?
糖尿病を長く持っている人、血糖値のコントロールが悪い人、高血圧や高脂血症がある人、喫煙者、妊娠中の糖尿病患者がリスクが高いです。特に、糖尿病になって10年以上経つと、発症の確率が急に上がります。Type 1でもType 2でも、発症の可能性は同じです。
レーザー治療は痛いですか?失明のリスクは?
治療中は、少しチクッとする程度の痛みがありますが、麻酔を使うので我慢できないほどではありません。失明のリスクは、治療をしない場合の方がはるかに高いです。レーザーは、出血や網膜剥離を防ぐための予防措置。治療によって視力が悪くなることは、ほとんどありません。
レーザー治療をしたら、視力は元に戻りますか?
一度失われた視力は、レーザーで戻ることはありません。レーザーの目的は、これ以上悪くならないようにすることです。黄斑浮腫が軽い段階で抗VEGF治療をすれば、視力が改善することもありますが、レーザー単独では視力回復は期待できません。
検査は、なぜ毎年受けないといけないの?
網膜の変化は、数ヶ月で進むこともあります。年に1回の検査は、最小限のリスク管理です。検査を2年も空けてしまうと、その間に視力を守れるタイミングを逃してしまう可能性があります。早期に見つければ、治療は簡単で、効果も高いです。
若い人でも、糖尿病網膜症になるの?
はい、特にType 1糖尿病の若年層では、20代で網膜症を発症するケースも珍しくありません。日本では、20~64歳の失明原因の第1位が糖尿病網膜症です。年齢に関係なく、糖尿病があれば、誰でもリスクがあります。若いから大丈夫、という考えは危険です。
次にすべきこと
もし、あなたが糖尿病患者なら、今すぐ次のことを確認してください:
- 最後の眼底検査はいつ? 1年以上前なら、すぐに予約を入れてください。
- HbA1cの値は? 7.0%を超えているなら、食事や薬の見直しが必要です。
- 血圧とLDLコレステロールは? どちらも目標値を超えているなら、医師に相談してください。
- タバコを吸っていますか? もし吸っているなら、禁煙を今から始めましょう。
視力を守るのは、あなた自身の行動次第です。検査を受ける、血糖をコントロールする、レーザーをためらわない--この3つを実行できれば、あなたは、糖尿病網膜症の恐怖から解放されます。