あなたが薬を手に取ったとき、本当にそれが正規の薬なのか、どうやって確かめますか?世界中で毎年、偽薬が数百万回も処方され、命を脅かしています。特にインターネット経由で薬を買う人が増える中、偽薬のリスクは私たち一人ひとりの手にかかっています。政府や製薬会社が技術で対策を進めていても、最終的なチェックは、あなた自身の目と判断に依存しています。
偽薬とは何ですか?
偽薬とは、正規の薬と見分けがつかないように作られた、偽物の医薬品です。中身は効果のない成分だったり、毒物が混ざっていたり、正しい量の有効成分が入っていなかったりします。パッケージは本物そっくりでも、中身が全く違う場合があります。世界保健機関(WHO)の2023年データによると、発展途上国では販売されている薬の10~30%が偽薬だとされています。日本や欧米のような規制が厳しい国では1%未満ですが、アジアやアフリカの一部では、毎回の薬が危険な可能性があるのです。
なぜ消費者の目が重要なのですか?
製薬会社はバーコードやシリアル番号、QRコードで薬の追跡を可能にしています。EUでは2019年から、処方薬の箱に個別の識別番号が必須になりました。でも、その番号をスキャンできるのは薬局だけではありません。あなたが薬を手に取ったとき、その包装に異常がないか、ちゃんと確認できるのです。
たとえば、あるブラジルの女性は、糖尿病の薬の錠剤の色や印字が前回と違うことに気づき、病院に相談しました。検査の結果、その薬は偽物でした。彼女が気づかなければ、家族全員が効果のない薬を飲み続け、病状が悪化していた可能性があります。このような事例は、世界中で起きています。製薬大手のPfizerは、2023年に消費者から寄せられた1万4,000件の通報をもとに、116カ国で217件の偽薬の流通を阻止しました。320万回分もの危険な薬が、患者の手に渡るのを防いだのです。
偽薬を見分ける5つの方法
偽薬を見抜くには、特別な知識はいりません。日常のちょっとしたチェックで十分です。WHOと世界保健専門職連盟(WHPA)が推奨する「BE AWARE」チェックリストを、実践的に使いましょう。
- 包装をよく見る:封が壊れていないか、シールがずれていないか、文字の色やフォントが不自然でないか確認してください。日本語の説明書に漢字の誤字や文法ミスがあれば、偽物の可能性が高いです。
- 有効期限を確認:正規の薬は、有効期限がはっきりと印刷されています。曖昧だったり、消しゴムで消したように見える場合は要注意です。
- 薬の形や色をチェック:以前に飲んでいた同じ薬と比べて、錠剤の色、形、刻印が違うことはありませんか?正規品は製造ロットごとに同じ仕様です。変化があれば、すぐに疑ってください。
- Tamper-proof seal(開封防止シール)があるか:正規の薬は、箱や薬の容器に「開封済み」かどうかわかるように、破れやすいシールがついています。このシールがなかったり、再貼り付けされているような跡があれば、偽物の可能性が高くなります。
- 購入ルートを確認:オンラインで薬を買うなら、「.pharmacy」という認証マークがついているサイトだけを使いましょう。日本では、薬局以外のネットショップで処方薬を買うことは法律で禁止されています。それでも、偽薬を売るサイトは「日本発送可」「安い」「即日配送」と謳って、多くの人をだましています。
QRコードやアプリでさらに安心
2024年から、フランスやブラジルでは、薬の箱にQRコードが貼られ、スマホでスキャンすると、その薬の製造情報や使用方法が動画で見られるようになりました。これは、偽造が難しい仕組みです。偽物の製造者が、本物と同じQRコードを再現するのは、技術的に非常に難しいからです。
日本でも、WHOが開発した「Medicines Safety」アプリが無料で使えます。このアプリで、薬の名前やシリアル番号を入力すると、正規品かどうかを確認できます。すでに世界で120万人以上が利用しています。また、日本では厚生労働省や薬剤師が行う「薬の安全講座」も増えており、地域の薬局で参加できるものもあります。
偽薬の危険は、ただの「効かない薬」じゃない
偽薬の一番の危険は、効かないことではありません。中には、重金属や殺虫剤、抗生物質の過剰配合、あるいは全く違う薬の成分が入っているケースがあります。ある患者は、偽の高血圧薬を飲んで、意識を失い、救急搬送されました。別の人は、偽の抗がん薬を長く使い続け、がんが進行してしまいました。
アメリカのNABP(全国薬局連盟)の2023年の調査では、5,000人の消費者のうち41%が、認証されていないオンライン薬局から薬を購入した経験があります。そのうち18%が、体調不良を経験し、後にそれが偽薬のせいだと判明しました。偽薬は、命を奪う可能性があるのです。
誰でもできる、簡単な対策
偽薬を防ぐためには、特別なスキルは必要ありません。たった3~5回、薬を買うときにチェックを習慣づけるだけで、あなたの安全は大きく変わります。
- 薬は、必ず信頼できる薬局や、.pharmacyマークのある正規のオンライン薬局で買う。
- 薬を手に取ったら、必ず包装と錠剤をチェックする。前回と違うと思ったら、薬剤師に相談する。
- QRコードやシリアル番号があれば、スマホで確認する。わからないときは、薬局でスキャンしてもらいましょう。
- 「安い」「即日配送」「海外直送」など、普通ではありえない宣伝には、絶対に手を出さない。
- 薬の副作用や効果が、いつもと違うと感じたら、すぐに医師や薬剤師に連絡する。
それでも心配なら、こうすればいい
偽薬の見分けが難しいと感じるなら、次の方法を活用してください。
- 厚生労働省の薬の安全相談窓口:0120-54-5488(無料)で、薬の写真を送って確認してもらえます。
- 地域の薬局:薬剤師は偽薬の見分け方を熟知しています。疑わしい薬を持っていけば、無料でチェックしてくれます。
- WHOのアプリ「Medicines Safety」:iOSとAndroidで無料ダウンロード可能。日本語対応。
偽薬は、一人ひとりの意識で減らせる
偽薬の問題は、政府や企業だけの責任ではありません。私たちが「大丈夫だろう」と思って薬を飲むたびに、偽薬の市場は広がります。でも、逆に、私たちが一つ一つの薬を疑い、チェックし、報告するたびに、偽薬の流通は止まります。
2021年から2023年にかけて、タイでは地域の住民に薬の見分け方を教えるキャンペーンを実施しました。その結果、偽薬の被害は37%減りました。日本でも、同じことが可能です。あなたが薬を手に取るたびに、ちょっとだけ目を凝らす。それだけで、自分と家族の命を守れるのです。
偽薬は、薬局で売られていることもありますか?
正規の薬局で偽薬が売られることは、極めて稀です。日本では、薬局は厚生労働省の厳しい監視下にあり、薬の仕入れ先や在庫管理が徹底されています。ただし、ネットで「薬局直営」と偽ったサイトは多く、実際には偽薬を売っているケースがあります。薬局の名前を使っていても、実際の店舗が存在しない、または住所が虚偽の場合は、すべて偽物と疑ってください。
シリアル番号やQRコードがなくても、偽薬の可能性がありますか?
はい、あります。特に、2019年以前に製造された薬や、海外から個人輸入された薬には、シリアル番号がついていない場合があります。偽薬の製造者は、古い包装や無印の箱を使って、本物と見分けがつかないように作っています。そのため、QRコードや番号がなくても、包装の状態や薬の見た目で判断することが重要です。
偽薬を発見したら、どうすればいいですか?
偽薬を発見したら、すぐに薬局や医療機関に連絡してください。日本では、厚生労働省の薬の安全相談窓口(0120-54-5488)に通報できます。薬のパッケージと薬の写真を撮っておくと、調査に役立ちます。通報は匿名でも可能です。あなたの行動が、他の人の命を救う可能性があります。
海外の薬を個人輸入しても大丈夫ですか?
個人輸入は法律上、自己責任で認められていますが、偽薬のリスクが非常に高いです。海外の薬は、日本と同じ基準で製造されていない場合が多く、成分や品質が保証されていません。特に、Amazonや楽天、SNSで売られている海外薬は、9割以上が偽物の可能性があります。正規の輸入薬は、日本で認可された業者を通じてしか入手できません。
高齢者や認知症の家族が薬を飲む場合、どうすれば安全ですか?
家族が薬を飲む場合、毎回の薬のパッケージをチェックする習慣をつけてください。薬剤師に「薬の管理サービス」を依頼すると、薬を一括で管理して、包装の異常をチェックしてくれます。また、薬の名前や効果を声に出して読み上げる習慣をつけると、異常な薬に気づきやすくなります。薬局では、薬の説明書を大きな文字で印刷してくれるサービスもあります。