アメリカで処方される薬の90%はジェネリック薬です。でも、その多くが手に入らなくなっています。病院の薬剤師は、抗生物質が在庫ゼロで、代わりの薬を必死に探しています。がん治療に使うシスプラチンが突然流通停止になり、患者の治療が遅れました。甲状腺の薬レボチロキシンが不足し、89人の患者に別の薬に切り替える必要がありました。これらの事態は偶然ではありません。これは、ジェネリック薬の製造システムが根本的に破綻している証拠です。
ジェネリック薬は安いから、作らない
ジェネリック薬は、ブランド薬と成分が同じで、価格は10分の1以下。これが利点でもあり、最大の弱点です。製造業者は、1錠あたり0.001ドルの価格差で競い合っています。1つの薬の契約が数百万ドル規模でも、利益は1錠あたり数セント。そんな状況で、最新の製造装置を導入する余裕はありません。連続製造という、品質を安定させる技術は、1台数億円かかります。ジェネリックメーカーは、その投資を回収できないのです。結果、製造は「安い場所」に移りました。アメリカのジェネリック薬の活性成分(API)の86%は、中国やインドで作られています。FDAのデータでは、抗生物質の97%、抗ウイルス薬の92%、アメリカで最も使われる上位100のジェネリック薬の83%は、アメリカ国内で1ミリも作られていません。これらの国では、規制が緩く、品質管理が不十分な工場が多いため、FDAは頻繁に「重大な品質問題」を指摘します。2022年、インドのインタス社のシスプラチン工場は、FDAから「体系的な不正」の指摘を受け、アメリカ市場から完全に撤退しました。
製造は世界中で分断されている
ジェネリック薬の製造は、まるで世界中の工場をつなぐ複雑なパズルです。活性成分はインドで作られ、不活性成分(充填剤やコーティング)は中国で調達され、カプセル化はベトナムで、最終パッケージングはポーランドで行われる。それぞれの工程が異なる国で行われ、品質管理はどこも中途半端です。アメリカの工場なら、1つの製造ロットの記録は95%以上正確に残されます。しかし、海外の工場では、78%しか正確に記録されていないというFDAの調査結果もあります。このグローバルなサプライチェーンは、パンデミックで一気に脆さを露呈しました。2020年初頭、中国とインドが重要な薬の輸出を停止。アセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)の原料が途絶え、アメリカの病院は「痛み止めがない」状態に陥りました。そのとき、アメリカ国内に生産拠点がなかったため、代わりの薬がまったく用意できなかったのです。
アメリカの製造は衰退している
2010年には、アメリカ国内でジェネリック薬の活性成分の35%が作られていました。2023年には、その割合は14%まで落ちました。37%のアメリカのジェネリックメーカーが、製造を完全にやめました。なぜでしょうか?新しくFDA認可の工場をアメリカに作るには、2億5千万〜5億ドル、5年かかります。インドや中国では、その1/5のコストで同じ工場が作れます。規制も厳しい。FDAの無通知検査に1回引っかかれば、是正に12〜18ヶ月、170万ドル以上かかります。FDAが指摘した「不備」(Form 483)をすべて修正するには、多くのメーカーが資金を枯渇させます。結果、ジェネリック市場は「低価格競争の罠」に陥りました。新しいメーカーが参入すれば、価格がさらに下がり、利益はゼロに近づきます。利益が出ないなら、工場を止めるしかない。2023年2月、アコーン・ファーマシューティカルズが破産。製品のすべてが一斉に流通停止になりました。代替薬がなく、患者の治療が直撃しました。ブランド薬は1社が独占して作るため、供給は安定しています。ジェネリックは、数十社が価格で競い合う。だからこそ、誰もが損をするのです。
患者はどんな影響を受けるか
ジェネリック薬が不足すると、患者は直撃を受けます。まず、代替薬としてブランド薬に切り替えます。しかし、ブランド薬はジェネリックの10〜50倍の価格。心臓の薬が、月10ドルから450ドルに跳ね上がったという患者の声があります。医療保険の自己負担額が急増し、薬を飲むのをやめる人もいます。さらに、品質の違いも問題です。2023年の研究では、インド製のジェネリック薬は、アメリカ製の同じ薬と比べて、重篤な副作用(入院、障害、死亡)が54%多かったと報告されています。因果関係は証明されていませんが、品質管理の差が原因と疑われています。患者は、自分が飲んでいる薬がどこで作られたか、知る術がありません。
政府は対策している?
FDAは「製造業者に、もっと作ってください」とお願いするしかできません。2023年10月、アメリカで278の薬が不足中。その67%はジェネリック薬。過去最高です。バイデン政権は2024年にFDAへの予算を12%増やしましたが、海外工場の数は40%増えており、対応は追い付いていません。議会では、ジェネリック薬の国内製造に税制優遇を導入する法案が提出されています。また、重要な薬の戦略的備蓄を始める動きもあります。しかし、これらの対策は「症状」を和らげるだけ。根本的な問題、つまり「安さがすべて」の市場構造は、まったく変わっていません。
未来はどうなる?
今後、ジェネリック薬の製造業者はさらに減ります。2022年には127社がアメリカ市場に参入していましたが、2027年には89社まで減ると予測されています。このままでは、心臓病の薬、抗生物質、がん治療薬、インスリンなど、命に関わる薬が、定期的に不足する状態が続きます。唯一の希望は、連続製造技術の導入です。FDAはこの技術を推進しており、2019年から12の工場が認可されています。しかし、これは全ジェネリック生産量の3%にも満たない。技術はあっても、お金がなければ使えない。安さを追求する市場では、品質と安定供給は二の次です。
ジェネリック薬は「安い薬」ではありません。それは、私たちの命を支える「社会的インフラ」です。自動車や電力のように、安さだけを追求すれば、いずれ崩壊します。ジェネリック薬の不足は、単なる「品薄」ではありません。アメリカの医療システムの、根本的な歪みを映す鏡です。