ジェネリック薬は、ブランド薬よりもずっと安い。それなのに、ある種の薬は、なぜかまだ高価なまま。それは、ジェネリック複合製品という特殊なカテゴリーの存在が理由です。例えば、エピペン(アドレナリン自己注射器)のような製品。ジェネリックのアドレナリン薬はありますが、それを注射するためのデバイス(注射器)がジェネリックとして承認されていないと、患者は依然として高価なブランド製品を買うしかありません。これが、複数のジェネリックが一つのブランド製品に匹敵するという現実です。
複合製品とは何か
複合製品とは、薬と医療機器、あるいは生物製剤が一つの製品として組み合わさったものです。単に薬と注射器を一緒にパッケージしただけではありません。薬とデバイスが物理的・化学的に結合している、あるいは別々に提供されても「必ず一緒に使うように」設計・ラベル付けされているものが対象です。代表的な例は:
- 薬がすでに詰められたプリフィルド注射器(エピペン、インスリンペン)
- 吸入器と薬液がセットになった製品(気管支拡張剤)
- 薬と診断デバイスがセットで使われるもの(がん治療薬と遺伝子検査キット)
この中で、最も重要なのは「主な作用モード(PMOA)」です。薬の効果が主なら、薬品担当のFDAセンターが審査。デバイスの機能が主なら、医療機器担当のセンターが審査します。この違いが、ジェネリック化の難しさを生んでいます。
ジェネリック化が難しい理由
普通のジェネリック薬は、成分が同じなら「同等」として認可されます。でも、複合製品では、薬だけが同じではダメなんです。デバイスの使い勝手、注射の圧力、薬の放出速度、ユーザーが誤って使わないようにする仕組み--これらすべてが、ブランド製品とまったく同じでなければなりません。
FDAは、ジェネリックのデバイス部分が「安全で、有効で、代替可能」かどうかを、6段階のユーザー評価プロセスで確認します。これは、単なる薬の濃度チェックとは次元が違います。たとえば、エピペンのジェネリックを試すとき、注射の音、押し込む力、針の露出速度、使い方の説明書の読みやすさまで、オリジナルと一致しているかを検証します。
このプロセスは、時間とお金が膨大です。開発に18〜24ヶ月かかり、コストは210万〜370万ドル(約3億〜5億円)かかります。標準的なジェネリック薬の開発は、平均6〜8ヶ月で済みます。複合製品のジェネリックは、それより2倍以上も時間がかかり、コストも2〜3倍になるのです。
承認率と市場の現実
2023年のFDAデータによると、一般のジェネリック薬の承認率は92%で、平均10ヶ月以内に承認されます。一方、複合製品のジェネリック申請(ANDA)は、承認率が47%に下がります。しかも、複合製品のジェネリックのうち、複数のメーカーが承認を得ているのはわずか38%。一般ジェネリックでは72%が複数メーカーで競争しています。
市場でもその差は顕著です。薬とデバイスの複合製品の世界市場は2023年で1387億ドル(約20兆円)と推定され、2028年には2143億ドルに達すると予測されています。しかし、ジェネリックの市場シェアはたったの12%。ブランド製品が68%を占めています。
なぜこんなに低いのか? 企業の側にも問題があります。開発の難しさとコストの高さから、複合製品のジェネリックに手を出す企業は限られています。世界で17社だけが、複合製品のジェネリックの83%を製造しています。一方、一般ジェネリック市場には120社以上の企業が参入しています。
患者と医療現場の混乱
患者は、なぜ同じ薬なのにこんなに高いのか、理解できません。2024年の患者フォーラムの調査では、複合製品のジェネリックを求める患者の37%が、通常のジェネリックより高い自己負担を強いられていると報告しています。
薬局でも混乱が起きています。全米地域薬剤師協会の2024年調査では、68%の薬剤師が、複合製品の代替について患者から質問やクレームを受けた経験があると答えています。42%は、毎月少なくとも1件のトラブルに直面しているのです。
Redditのr/pharmacyでは、2024年8月に「なぜ私のエピペンのジェネリックは代替できないの?」という投稿が287件のコメントを集めました。薬剤師のu/PharmD2010はこう書きました:
「注射器そのものが製品の一部です。アドレナリンがジェネリックでも、対応するジェネリック注射器が承認されていなければ、代替はできません。でも、そのジェネリック注射器は、ほとんど存在しないんです。」
医師の間でも同様の問題が。米国医師会の2024年調査では、57%の医師が、複合製品の代替問題で治療が遅れた経験があると答え、平均して1回の遅延が3.2営業日にもなると報告しています。
規制の変化と未来
FDAは、この問題を無視していません。2024年4月には、複合製品のジェネリック申請に関する新しいガイドラインを発表しました。複合製品の比較分析の方法を明確にし、開発者の負担を減らそうとしています。
さらに、2024年6月には「複雑ジェネリックイニシアチブ2.0」を発表。複合製品の承認プロセスを30%短縮することを目標に掲げ、2026年までに達成する予定です。FDAのジェネリック製品担当チームは、2022年以来スタッフを45%増やし、32人の専門審査官を配置しました。
州レベルでも動きが出ています。カリフォルニア州(AB-1847法案)とマサチューセッツ州(H.3982法案)が、複合製品の代替を法律で認める方向で立法を進めています。他の12州も同様の動きを検討中です。
専門家は、これらの改革によって、複合製品のジェネリック市場シェアは2027年までに19%から35%にまで拡大すると予測しています。しかし、その先にはまだ大きな壁が残っています。
あなたが今できること
もし、あなたや家族がエピペン、インスリンペン、吸入器などの複合製品を使っているなら、次のことを覚えておいてください。
- ジェネリック薬だけを処方されても、代替できない可能性がある
- 「ジェネリック」と表示されている製品でも、デバイス部分がブランドのままの場合がある
- 薬局で「この製品は、ブランドと完全に代替可能ですか?」と必ず確認する
- 保険がジェネリックをカバーしない場合、メーカーの患者支援プログラムを調べる
複合製品のジェネリック化は、単なる「薬の値段を下げる」問題ではありません。それは、患者が安全に、確実に、必要な治療を受けられるかどうかという、医療の根幹に関わる問題です。薬だけが安くなっても、それを正しく使うためのデバイスが手に入らなければ、意味がないのです。未来の医療は、薬とデバイスが一体となって、誰にも平等に届くようにしなければなりません。