チラミン摂取量チェック
リネゾリッドを服用中は、チラミンを含む食品を避ける必要があります。本ツールで、摂取した食品のチラミン量を計算し、危険かどうか確認してください。
リネゾリッドは、耐性菌であるVREやMRSAの治療に使われる抗生物質です。しかし、この薬には多くの人が知らない重大なリスクがあります。チラミンを含む食品を食べると、血圧が急激に上がり、命に関わる高血圧危機を引き起こす可能性があるのです。
なぜリネゾリッドで食事制限が必要なのか
リネゾリッドは、通常の抗生物質とは違います。この薬は、体内のモノアミン酸化酵素(MAO)を弱くですが、長く抑制する性質を持っています。この酵素は、チラミンという物質を分解する役割をしています。チラミンは、発酵・熟成された食品に多く含まれ、普通なら体が自然に処理できます。
しかし、リネゾリッドを飲んでいると、この酵素の働きが止まってしまいます。チラミンが体内に溜まり、交感神経からノルアドレナリンが大量に放出されます。その結果、血管が急激に収縮し、血圧が一気に上昇するのです。FDAのデータでは、100mg以上のチラミンを摂取した場合、30〜120分で収縮期血圧が30〜50mmHgも上がる事例が確認されています。
どれくらいのチラミンで危険なのか
危険なのは、たった100mgのチラミンです。これは、普通の食事ではまず出ない量ではありません。
- 熟成チーズ(例:ブルーチーズ、パルメザン):100gあたり50〜400mg
- ドライソーセージ、サラミ:100gあたり50〜200mg
- 生ビール、クラフトビール:100mlあたり8〜70mg
- 醤油:100mlあたり6〜30mg
- 新鮮な肉や野菜:100gあたり2mg以下
つまり、チーズ1切れ(約50g)や、缶ビール1本で、危険なラインに達する可能性があります。特にブルーチーズや熟成されたソーセージは、過去に患者が血圧急上昇を起こした事例が複数報告されています。
入院中と外来で違う対応
ここで重要なのは、入院中と外来で対応が違うということです。
入院中の患者は、病院の食事は基本的に安全です。ニューヨーク・プレスビテリアン病院の研究(2010年)では、病院の標準メニューの1日あたりのチラミン量は最大でも42mg。これは危険な100mgの半分以下です。そのため、米国では73%の病院が、入院中のリネゾリッド患者に厳格な食事制限をやめています。病院の栄養士は、チーズや発酵食品だけを避け、それ以外は普通の食事を提供しています。
一方、自宅で治療する患者は別です。自宅では、何を食べているかわかりません。熟成チーズを食べたり、クラフトビールを飲んだりする可能性があります。そのため、外来患者には絶対的な食事制限が求められます。
絶対に避けるべき食品リスト
リネゾリッドを飲んでいる間は、以下の食品をすべて避けてください。
- 熟成チーズ(ブルーチーズ、パルメザン、チェダーチーズ、ゴルゴンゾーラなど)
- ドライソーセージ、サラミ、ペストリー、肝臓パテ
- 生ビール、クラフトビール、発酵した麦芽飲料
- 赤ワイン、シャンパン、カクテル、ホームブリュードワイン
- 醤油、味噌、魚醤(大量に摂取した場合)
- 発酵大豆製品(納豆、味噌、醤油の過剰摂取)
- 冷凍・保存が不適切な肉や魚(熟成・腐敗が進んでいるもの)
- タンパク質抽出物、プロテインパウダー、サプリメント
チョコレートは少量(1〜2切れ)なら問題ありませんが、大量摂取は避けてください。カフェイン入りのコーヒー・紅茶は問題ありません。普通の白ワインは1杯(1単位)までなら許容されています。
治療終了後も14日間は注意が必要
リネゾリッドをやめたからといって、すぐ元の食事に戻してはいけません。
この薬の効果は、体内から消えても、MAO酵素の働きが完全に回復するまでに14日間かかります。薬が体内から抜けても、酵素が再び活性化するまでには時間がかかるのです。この期間中にチラミンを摂取すると、血圧危機が起こるリスクは依然として高いです。
実際に、患者の78%が、薬をやめてすぐチーズやビールを食べたことで、血圧が急上昇したという報告があります。薬をやめても、14日間は同じ制限を守り続けてください。
どうやって食事管理を実践するか
食事制限は、単に「ダメな物を避ける」だけでは不十分です。
・病院で処方されたとき、薬剤師に「どの食品が危険か」を必ず確認してください。多くの患者は、説明を受けていません。2019年の調査では、45%の患者が十分な指導を受けていませんでした。
・買い物のとき、パッケージの「発酵」「熟成」「熟成済み」「保存料なし」などの表記に注意。これらはチラミンのサインです。
・肉は、当日購入した新鮮なものだけを選びましょう。冷蔵庫で数日保存した肉は危険です。
・外食は、熟成チーズやソーセージが使われている可能性が高いので、避けた方が安全です。和食は比較的安心ですが、味噌汁や醤油の量に注意。
・家族や同居人に、このリスクを説明して、協力してもらいましょう。一人で頑張る必要はありません。
血圧が急に上がったときの対応
頭痛、動悸、息苦しさ、視界のぼやけ、激しい頭痛、吐き気、発汗――これらは高血圧危機のサインです。
もし、これらの症状が現れた場合、すぐに救急車を呼んでください。自力で対処できません。血圧が200mmHgを超えると、脳出血や心臓発作のリスクが急増します。
病院では、血圧を下げる薬(ニトロプルシドなど)を静脈で投与して対応します。早期の対応が命を救います。
リネゾリッドは、本当に必要なときだけ使う薬
リネゾリッドは、他の抗生物質が効かないときだけ使う「最後の切り札」です。2023年の世界販売額は12億ドルに達していますが、耐性菌の増加を防ぐために、使用は厳しく制限されています。
この薬のMAO抑制作用は、精神科で使われる本格的なMAOI(例:フェネルジン)より弱いです。しかし、それでも十分に危険です。医療現場では、入院患者には制限を緩め、外来患者には厳しく指導するという、バランスの取れたアプローチが標準になっています。
日本でも、2024年の感染症学会のガイドラインでは、この方針が正式に採用されています。つまり、病院では普通の食事、自宅では徹底した制限――これが、最新の正しい対応です。
よくある疑問
リネゾリッドを飲んでいるとき、味噌汁は飲んでもいいですか?
味噌汁は少量なら問題ありません。ただし、味噌の量が多すぎるとチラミンが過剰になる可能性があります。1杯分(約150ml)程度なら安全です。味噌の種類や発酵期間が長いものは避けて、一般的なスーパーで売っている味噌を少量使うのがベストです。
チーズを1口食べただけで危険ですか?
はい、危険です。特にブルーチーズやパルメザンは、100gあたり50mg以上もチラミンを含みます。1口(約10g)で5〜10mg。単体ではまだ安全かもしれませんが、他の食品(ビールや醤油)と組み合わせると、100mgの危険ラインに達する可能性があります。絶対に避けてください。
リネゾリッドをやめた後、何日待てばいいですか?
14日間です。薬が体から抜けても、MAO酵素が完全に回復するまでには14日かかります。この期間を守らないと、血圧が急上昇するリスクが高くなります。薬をやめた日から数えて、14日目以降に安全な食品を少しずつ再開してください。
ビールはすべてダメですか?
生ビール、クラフトビール、発酵ビールはすべて避けてください。これらはチラミンが豊富です。缶ビールや瓶ビールも危険です。代わりに、蒸留酒(焼酎、ウィスキー、ジン)なら少量なら安全です。ただし、チューハイやカクテルは、果実や発酵原料が入っていることがあるので注意が必要です。
病院でリネゾリッドを処方されたとき、食事制限は必要ですか?
入院中の患者は、基本的には特別な食事制限は必要ありません。病院の食事は、チラミン量が1日42mg以下に抑えられており、危険なレベルには達しません。ただし、熟成チーズやソーセージ、赤ワインなどの高リスク食品は、病院でも提供されません。安心して通常の病院食を食べてください。
まとめ:安全に使うための3つのルール
- リネゾリッドを飲んでいる間は、熟成チーズ、発酵肉、生ビール、赤ワインを一切避ける。
- 薬をやめた後も、14日間は同じ制限を続ける。
- 入院中は病院の食事で安心、自宅では徹底的に注意する。
リネゾリッドは、命を救う薬です。でも、その効果を最大限に生かすには、食事の知識も必要です。このガイドを読んで、正しい食事管理を実践してください。血圧危機は、突然、誰にでも起こります。でも、予防は簡単です。