世界のジェネリック薬の活性成分(API)の80%以上が中国で作られています。これは単なる数字ではありません。あなたの服用している高血圧薬、抗生物質、糖尿病治療薬の多くが、中国の工場で合成された化学物質からできている可能性があります。でも、その品質は本当に信頼できるのでしょうか?
中国が世界のAPI市場を支配する理由
2001年のWTO加盟をきっかけに、中国政府は製薬産業を国家戦略として育てました。補助金、環境規制の緩和、低コスト労働力--これらが中国のAPI製造を急成長させました。今では、シノファームや石家荘製薬のような大手企業が、年間500~2,000トンものAPIを生産する巨大工場を運営しています。そのコストは、欧米の製造業者より30~40%安いのです。
中国の強みは、化学原料から中間体、最終APIまでを一貫して自社で管理する「垂直統合」です。60~70%の生産工程を内製化しているため、原料調達のリスクが低く、価格競争力が生まれます。特に、フッ素化や有毒物質を使った複雑な合成ステップでは、中国が世界の主要サプライヤーとなっています。
品質の問題はなぜ繰り返されるのか
しかし、コストの安さと裏腹に、品質の不安は消えていません。米国FDAの2022~2023年の検査データによると、中国の製薬工場の78%で「検査室管理の不備」、65%で「製造プロセスの検証不足」、52%で「データ改ざんの疑い」が指摘されています。
例えば、2023年、米国のZydus社は、中国の華海製薬から仕入れた高血圧薬のAPIが効力不足だったため、120万本を回収しました。Redditの医薬品業界関係者コミュニティでは、ユーザーが「中国産メトホルミンのAPIは、印度産に比べて37%も再検査が必要」と書き込んでいます。これは、単なる偶然ではありません。FDAの試験では、中国産APIの12.7%が純度基準を満たしておらず、欧州製は2.3%、米国製は1.8%でした。
なぜこんなことが起きるのか? 一つの理由は、技術の遅れです。中国の製薬工場の65%は、まだ古い「バッチ製造」方式を使っています。一方、欧米では35%以上が「連続製造」という最新技術に移行しています。連続製造は、工程ごとの品質をリアルタイムで監視でき、不純物の混入を防ぎます。中国は、この技術の導入が遅れています。
規制改革は進んでいるのか
中国も問題を無視していません。2016年、国家薬品監督管理局(NMPA)は「ジェネリック薬一貫性評価」(GCE)プログラムを導入しました。これは、中国産ジェネリック薬がオリジナル薬と同等の効果を持つことを科学的に証明する制度です。2018年以降、4,500社以上の非適合メーカーが閉鎖され、ジェネリック製造業者は7,000社から2,500社に減りました。
しかし、進展は限定的です。2024年現在、承認されたジェネリック薬のうち、GCEを完了したのはたった35%です。NMPAは「95%のGMP認定工場が国際基準(ICH Q7)を遵守している」と主張しますが、FDAが実際に検査する工場は、中国全体の187施設にすぎません。米国では、FDAが国内の工場を年間1回以上検査するのに対し、中国の工場は10年に1回も検査されないケースが珍しくありません。元FDA委員長のマーガレット・ハーバーグ氏は、「アクセスの制限により、中国の工場を検査する頻度は国内の1/10にすぎず、薬の安全性監視に大きな盲点が生じている」と証言しています。
供給チェーンの危険性
中国がAPIの生産を独占していることは、世界中の患者にとってリスクです。米国で売られる薬の88%のAPIは海外で作られており、そのうち28%が中国です。つまり、アメリカ人の10人に1人が、中国の工場の生産ラインに命を預けていることになります。
2024年の神経学専門誌の分析は、こう警告しています。「貿易摩擦や自然災害で中国からの供給が止まれば、アメリカの患者は救命薬を手に入れられなくなる可能性がある」。元FDA委員長のアンドリュー・フォン・エシェンバッハ氏は、「中国が90%の必須薬の基礎原料(KSM)を支配している。これは国家的安全保障上の脆弱点だ」と語っています。
インドは中国から65%のAPIを輸入していますが、完成形のジェネリック薬の20%を世界に輸出しています。つまり、中国が作って、インドが加工して、世界中に届けているのです。この複雑なサプライチェーンは、一つの点で壊れれば、全体が止まる構造になっています。
欧米の対応と未来の見通し
この状況に、欧米は動き始めています。米国は「CHIPS科学法」でAPIの国内生産に5億ドルを投じ、EUは2024年の製薬戦略で、中国依存率を80%から2030年までに40%まで減らす目標を掲げました。インド、ベトナム、メキシコも、中国の穴を埋めるために製薬工場を増やしています。
中国自身も対応を迫られています。2024年に発表された「医薬2035」計画では、220億ドルを投じて製造技術と品質管理を一新すると宣言。2026年までに、高容量製品の30%で連続製造を導入することを義務付けました。しかし、問題はお金ではありません。文化です。
米国の製薬会社が中国で工場を建てると、18~24ヶ月かかっても、GMP基準の違いで苦戦します。中国では、検査データの記録方法、環境モニタリングの頻度、文書の保存期間が、FDAやEMAと17箇所も異なります。あるPwCの調査では、63%の企業が「中国側の品質文書の文化に馴染めない」と答えています。Pfizerが華海製薬と提携してFDA承認を得るまでに、36ヶ月と2,200万ドルを費やしたのは、この文化の壁の大きさを物語っています。
コストとリスクの天秤
「中国製APIは安い。でも、品質が不安」という声は、業界の真実です。Gartnerの2024年調査では、中国のAPIサプライヤーは品質一貫性で5点満点中3.2点、価格では4.7点、生産能力では4.5点を獲得しました。一方、欧州のサプライヤーは品質で4.1点、価格は3.0点です。
ある調達担当者はRedditにこう書き込みました。「中国産アモキシシリンに切り替えて、年間420万ドルのコストを削減した。でも、不良品のリジェクト率は15%上がった。それでも、利益は増えた」。これは、企業の現実です。医療の世界では、コストと安全のバランスを取る必要があります。
しかし、患者の命を預かる薬の世界では、コスト削減が優先されるべきではありません。品質が担保されない薬は、治療効果が薄いだけでなく、有害な副反応を引き起こす可能性があります。FDAが指摘する「データ改ざん」は、単なる管理ミスではありません。意図的な不正です。それは、医療の信頼そのものを崩す行為です。
今後5年が勝負
中国のジェネリック製薬は、今、岐路に立っています。Deloitteの分析は、中国が現在の市場シェアを維持するには、5年以内に主要市場での規制適合率を95%以上に引き上げ、30~40億ドルを品質インフラに投資しなければならないと警告しています。
もし中国がこの課題に真剣に取り組み、技術と文化の両方を変えることができれば、世界の薬の供給を支える基盤として再び信頼を取り戻せるでしょう。しかし、もしコスト優先の姿勢を変えなければ、欧米の「中国依存脱却」は加速し、中国の製薬業界は、自らの過ちで市場から追い出されることになるでしょう。
あなたが飲んでいる薬が、どこで、誰によって作られたか--それは、単なる情報ではありません。あなたの健康と命に関わる、真実の話です。
花田 一樹
中国の工場で作られた薬を飲んでるって考えると、ちょっと背筋が凍るな。でも、安いから仕方ないってのが現実だよね。
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