ジェネリック薬が市場に登場したとき、価格は一気に下がります。でも、その下がり方は、最初のジェネリックだけでは終わらないんです。2番目、3番目のメーカーが参入したとき、本当の価格戦争が始まるのです。
最初のジェネリックは、まだ高い
ブランド薬の特許が切れて、最初のジェネリックが販売されると、価格はブランド薬の約87%まで下がります。これだけでも大きな節約になりますが、患者にとってまだ高すぎるケースがよくあります。なぜなら、最初のジェネリックメーカーには、競争相手がいないからです。価格を下げて市場を奪い合う必要がないのです。実際、アメリカのFDAのデータによると、最初のジェネリックが登場した直後、薬価はブランド薬の87%程度で安定します。これは、価格が下がったように見えても、まだ「競争がない状態」なのです。
2番目のジェネリックが入ると、価格は半分に
ここからが本番です。2番目のジェネリックメーカーが製品を市場に投入すると、価格は一気にブランド薬の58%まで下がります。つまり、最初のジェネリックと比べて、約33%もさらに安くなるのです。なぜこんなに下がるのか? 簡単です。2社が同じ薬を売っているなら、どちらかが価格を下げれば、患者や薬局は安い方を選ぶからです。メーカーは、価格を下げずにいると、売上が減るリスクを背負います。だから、価格競争が始まるのです。
この現象は、薬の種類に関係なく見られます。高血圧の薬、糖尿病の薬、抗生物質、どれも同じパターンです。2番目のジェネリックが登場した直後、価格は平均で30〜40%下落します。
3番目のジェネリックで、価格は4割以下に
3番目のメーカーが加わると、価格はさらに下がります。ブランド薬の価格の42%まで落ち込むのです。つまり、最初のジェネリックと比べて、約50%も安くなる計算になります。この段階になると、薬の価格は、ブランド薬の半分以下になります。多くの患者が、自己負担額を大幅に減らすことができます。特に、長期的に薬を飲み続けなければならない人にとっては、この価格差が生活を左右します。
アメリカの保健福祉省(HHS)の分析では、3社以上のジェネリックメーカーが競争している市場では、価格が20%以上下がるというデータがあります。これは、3社が「価格を下げるための最低ライン」であることを示しています。
競争が減ると、価格が逆に上がる
面白いことに、競争が減ると価格は逆に上がります。フロリダ大学の研究では、ジェネリック薬の市場が2社だけの「デュオポリー」になると、価格が100〜300%も上昇したケースが複数見られました。なぜでしょうか? 2社しかいないと、どちらも「価格を下げすぎると、相手に市場を取られる」という心理が働きます。結果、価格を維持し、利益を守ろうとするのです。これが「競争のない競争」です。患者にとっては、まったくの逆効果です。
この現象は、アメリカのジェネリック市場全体の約半分で起きています。つまり、多くの薬が、本来ならもっと安くなるはずなのに、価格が吊り上げられたままになっているのです。
なぜ、第2・第3ジェネリックは遅れるのか?
理想は、最初のジェネリックが登場した直後に、2番目、3番目が続々と入ってくることです。でも、現実はそう簡単ではありません。まず、製造コストが高くなる薬があります。複雑な注射剤や、特殊な形態の薬(例えば、吸入剤や皮膚貼付剤)は、製造技術が難しく、開発に時間がかかります。そのため、2番目、3番目のメーカーが参入するまでに数年かかることもあります。
また、ブランド薬メーカーが「パテント・スパイラル」と呼ばれる戦略を使って、ジェネリックの参入を遅らせることもあります。これは、同じ薬に対して複数の特許を重ねて申請し、実質的な独占を延長する手法です。ある人気薬では、75もの特許が登録され、独占期間が18年も延長された事例があります。
さらに、「ペイ・フォー・デレイ」と呼ばれる不正な取引もあります。ブランドメーカーがジェネリックメーカーに「市場に出るのを待ってほしい」とお金を支払い、競争を遅らせるのです。アメリカのブルー・クロス・ブルーシールド協会の推計では、この手法だけで年間120億ドル(約1,800億円)の患者負担が増加しています。
大手卸・PBMが価格を圧迫する
ジェネリックメーカーが価格を下げても、患者の負担が減らない理由があります。それは、薬の流通構造です。アメリカの薬の流通は、3つの巨大な卸売業者(マッケソン、アメリアソースバーゲン、カーディナルヘルス)と、3つのPBM(保険運用会社)が支配しています。これらは、ジェネリックメーカーに対して「安い価格で納品しないと、病院や薬局への販売を拒否する」と圧力をかけます。
つまり、メーカーは「価格を下げてでも売らなければならない」状況に置かれます。結果、利益が圧縮され、製造をやめるメーカーも出てきます。これが、ジェネリックの供給不足や、薬の欠品につながる原因の一つです。
価格が下がれば、品質は大丈夫?
「安ければ、品質が落ちるのでは?」という疑問があるかもしれません。でも、FDAは、ジェネリック薬の品質はブランド薬と「同等」であると明確に保証しています。同じ有効成分、同じ量、同じ吸収率でなければ、承認されません。価格が下がるのは、マーケティング費用や広告費がゼロだからです。ブランド薬は、テレビCMや医師への訪問営業に数十億円を費やします。ジェネリックは、それらを一切しません。コストを削減しているだけで、薬の効果は変わりません。
日本ではどうなのか?
日本では、ジェネリック薬の使用率は2025年時点で約50%と、アメリカ(90%)より低いです。しかし、価格の下落メカニズムは同じです。最初のジェネリックが登場すると、価格は30〜40%下がり、2番目、3番目が加わるとさらに20〜30%下がります。日本でも、2020年にマイランとアップジョンが合併してビアトリスが誕生し、ジェネリックメーカーの数が減りました。この傾向が続けば、価格の下落が鈍る可能性があります。
政府は「ジェネリック薬の使用促進」を掲げていますが、もっと重要なのは「複数メーカーが参入できる環境づくり」です。特許の濫用を防ぎ、承認手続きを早め、中小メーカーを支援する政策が急務です。
なぜ、第2・第3ジェネリックが「最強の価格抑制手段」なのか?
FDAの元長官、スコット・ゴットリーブ博士は、次のように言っています:「第2、第3のジェネリックメーカーの参入こそ、薬価を持続的に下げる最も強力な手段だ。この競争を妨げるあらゆる行為は、患者を傷つける」これは、単なる意見ではありません。データが証明しています。
- 最初のジェネリック:価格を87%に
- 2番目のジェネリック:58%に(-33%)
- 3番目のジェネリック:42%に(さらに-27%)
- 10社以上が競争:価格はブランドの10〜20%にまで下がる
この数字は、単なる統計ではありません。患者が毎月の薬代をどれだけ減らせるか、という現実の話です。
薬が高すぎて、飲み続けられない人がいます。その原因の多くは、「第2、第3のジェネリックが参入できなかった」ことにあります。競争がなければ、価格は下がりません。
だからこそ、第2、第3のジェネリックが、薬の価格を下げる「鍵」なのです。それらが市場に増えれば、患者の生活は、確実に楽になります。
ジェネリック薬は安全ですか?
はい、ジェネリック薬は、ブランド薬と同じ有効成分、同じ用量、同じ効果を持っています。FDAや厚生労働省は、ジェネリックがブランド薬と「同等」であることを厳しく審査しています。製造工程や品質管理も同じ基準を満たさなければ承認されません。価格が安いのは、広告やマーケティングの費用がないからです。
なぜ第2、第3のジェネリックが参入しないのですか?
主な理由は3つあります。1つ目は、製造が難しい薬(注射剤や吸入剤など)は技術的ハードルが高いことです。2つ目は、ブランドメーカーが特許を複数申請して参入を遅らせる「パテント・スパイラル」です。3つ目は、大手卸やPBMが価格を圧迫し、利益が薄くなりすぎて参入を断念するケースです。
ジェネリック薬の価格が下がると、供給が不安定になるって本当ですか?
はい、そのリスクはあります。価格が低くなりすぎると、メーカーの利益が圧縮され、生産をやめたり、工場を閉鎖したりするケースがあります。特に、製造コストが高い薬や、需要が少ない薬では、供給が途絶える「薬の不足」が起きやすくなります。FDAもこの問題を認識しており、2023年から「複雑なジェネリック」の承認を加速する取り組みを始めています。
日本でも第2、第3のジェネリックは価格を下げる効果がありますか?
はい、同じメカニズムが働きます。日本でも、最初のジェネリックが登場すると価格は30〜40%下がり、2番目、3番目が加わるとさらに20〜30%下がります。ただし、日本のジェネリック使用率は約50%で、アメリカ(90%)より低いのが課題です。メーカーの数が少なく、競争が十分でない市場が多いのが原因です。
「ペイ・フォー・デレイ」とは何ですか?
「ペイ・フォー・デレイ」とは、ブランド薬メーカーがジェネリックメーカーに「市場に出るのを待ってほしい」とお金を渡して、競争を遅らせる不正な取引です。アメリカでは、この手法で年間120億ドル(約1,800億円)の患者負担が増加しています。この行為は、競争を妨げる違法行為として、アメリカ議会で規制の動きが進んでいます。